へばったらがんばれ

 昔私がバスケットボールをしていたことは以前に書いた。実はそのころのコーチは実の父だった。その父の口癖が「へばったらがんばれ」だった。もうすでに90歳で他界して来年は13回忌を迎えようとしている。いまだにクラブのOB会(卒業生の会)では「へばったらがんばれ」が一つの合言葉になっている。

 何かとスポーツの世界では根性論がもてはやされる傾向にあり、根性論はスポーツ科学やスポーツ医学に対立する考え方としてとらえられることが多い。「へばったらがんばれ」というと根性論のように響くが私たちが教わったのは少し違うように思う。

 「へばったらがんばれ」は次のように説明される。

 力量の違う相手との勝負は自分たちが強ければ疲れるほど頑張る必要はなく、相手が強ければ疲れるほど戦わせてもらえない。問題は力量に差がさほどない場合である。その場合、勝負に決着がつくのは試合の最後であり、その時には必死で試合をすすめた結果としてどちらのチームも疲れ果てている。その時に頑張れるかどうかで勝負は決まるのである。

 練習は試合で能力を発揮するために苦手なことを克服し、得意なことをさらに上達させることを目的に行われる。

ではへばった時に能力を発揮するための練習はいつ行えばいいのか?それはへばった時でしかない。へばった状態を作るのには大変な努力を要する。その大変な努力をしてせっかくへばったのにそれを利用しないことほどもったいないことはない。つまりへばった時に頑張らなければ損だろうというのである。私はこの言葉を素直に受け止め、練習の途中の休憩、終了時に水を飲みに行く前に必ずフリースローを2本投げた。

 人生へばって投げ出したくなることがいくらでもある。そんなときにへばったらがんばるという経験をしたことはとても大きな財産になっている。

 最近の内閣府の調査では自殺を考えたことのある人が4人に一人いるという。特に若い人に多いという。うつ病と自殺には深い関係があり、うつ病の人に頑張れと励ますことは禁句であることはよく知られている(?)。そうなる前にへばったらがんばれを体験しておくことをぜひ勧めたい。そして、頑張れないときにはヘルプ!と叫ぼう。何もしてあげることはできなくても、話を聞いてそばにいることぐらいはできそうである。